PROJECT STORY

マンション再生 長寿命化

事例詳細「スーパーリフォーム」高経年建物・既存不適格建物を新築同様に再生、建替えにかわる新手法

  • 建物

    マンション

  • 課題

    改修・長寿命化 意匠・デザイン 構造・耐震補強 コスト削減・収益向上 企画・設計 設備改修 防災力向上

  • 関連サービス

    トータル・リノベーション スーパーリフォーム 大規模修繕コンサルタント 長寿命化コンサルタント 防災・耐震コンサルタント 環境・設備コンサルタント

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INDEX

  • 第1章:建替えを検討してきた経緯

    背景

    都内の山手線内に位置するAマンションは、東京における分譲マンションの創世記にあたる物件であり、新築当時はセンセーショナルな話題として注目を集めたようだったが、築54年を迎え、老朽化に伴う重篤な課題を抱えていた。

    54年前の日本では、分譲マンションそのものがまだ少なく珍しい時代であり、「マンションに永住する」意識は低く、またマンションの寿命は50年程度ではないか、というイメージが一般的であった。もちろん、現代においては「マンションの寿命は短命であり、およそ50~60年程度」というのは根拠がないことや、80年、100年と使っていける可能性が十分あるという認識も広まっているのだが、Aマンションにおいても同様に、短命な印象が一般的な感覚であり、築29年時に「マンション問題勉強会」が開催され、翌年には「建替え準備委員会」が発足されるほどであった。


    平成30年度マンション総合調査結果(国交省)より(平成31年4月26日住宅局市街地建築家マンション政策室) 国交省は管理組合や区分所有者のマンション管理の実態を把握するための調査を約5年に一度行っています。(前回調査は平成25年) マンション居住者の永続意識は高まっており、平成30年度調査において「永住するつもり」が過去最高の62.8%(前回調査より+10.4%)となった

    既存不適格の壁/建替えが困難

    マンションが老朽化したらどうするのか? 当時の一般的な考え方では「建替え」が常識であり、他の選択肢は無かった。しかし、Aマンションの場合は、新築当時には無かった日影規制が新たに制定され、建替えの場合はその規制に適合させる必要があった。確かに、Aマンションの周囲には、日影規制が制定された後に建てられた建物が多く、いずれもAマンションよりも低層のものが多く、都心にありながら、密集感が強くない。 Aマンションも、その規制エリアに建っており、もし建替えるとなれば、規制に従わなければならないため、建物の配置や形状などを大きく変える必要が出てくる。 実際に建替えの検討を始めると、既存不適格の問題が立ちはだかり、「同じような建物で建替えることができない」「現状より小さくなってしまう」「工事費が高騰しているため、建替え費用もかなり高額になってくる」といった問題が山積していることが分かった。

    3つの「建物の劣化」

      • 物理的劣化

        竣工から年月過ぎた建物は、雨水や排気ガスその他化学要因、および長年の使用に夜物理的要因によって使用材料・機器の劣化がはじまり、進行します。
        この劣化に応じて定期的な修繕が必要となり、劣化が建物全体広がると大規模修繕が必要となります。

      • 機能的劣化

        技術の進化より、建物建築時に比べて高性能・小型化された設備機器や材料が開発された結果、性能が低下していなくても相対的に劣化(陳腐化)することがあります。
        また、法改正により、法令の基準と適合しなくなることも、これにあたります。具体的には新耐震基準以前(※)に建築された建物等が該当します。

        ※ 新耐震基準は昭和56年6月1日以降に着工した建築物に適用されます。
        (出典:一般社団法人マンション管理員検定協会「改訂版マンション管理員検定公式テキスト」日本能卒協会マネジメントセンター、2013年P35)

      • 社会的劣化

        社会的な要求が時代とともに変化するために生じる劣化のことで、高度情報化や部屋構成等に対応できないことで生じる劣化のことです。高速インターネットや省エネ、宅配ボックスや防犯システムが完備されているマンションが販売されている現在、このようなニーズに対応できないものがこの劣化にあたります。

    隣地を巻き込む建替え案で、負担の少ない建替えを狙う

    建替え検討委員会は、日影規制(既存不適格)と資金面の課題を解決するため、隣地を巻き込もうと考えた。隣地は低層の木造住宅であり、ちょうどAマンションが落とす影に位置しているため、共同で建て替えを計画すれば、現状よりも高層なマンションに建替えが可能となる、まさにパートナーとしてこれ以上無い条件を備えていた。 委員会はデベロッパーやゼネコン等を巻き込みながら、高層マンションへ建替える計画を練り始めた。高層になり、余剰住戸が生まれてくれば、その余剰分を販売することで建替えの負担額を抑えることもできる。
    しかし、隣地所有者はこの計画に参加する意思が無く、現在に至るまで20年以上も反対の立場を取っているため、現実にはこの建て替えは不可能な計画となってしまった。

    大規模修繕では対処しきれない2つの大きな課題

    現在では、分譲マンションの大規模修繕工事は、およそ12~15年毎に定期的に実施されるものとして当然の認識となっているが、分譲マンションの先駆けの一つであるAマンションでは、長期修繕計画も無く、大規模修繕工事は築27年時に1度行っただけであった。それは、「どうせ建替えるのであれば、修繕など必要ない」という考えが一般的であったからであり、その後築52年時まで大規模修繕は行われなかった。
    建替え案を模索し続けてきたAマンションであったが、隣地の参加拒否で共同建て替えは実らない。そこで、隣地を巻き込まない形での単独建替え案、そして耐震補強で延命する案や、大規模修繕を実施する案なども複合的に検討された。
    しかし、いずれも決め手に欠け、分譲マンション特有の「合意形成」も進まずに、時間ばかりが残酷なまでに過ぎていった。時代は進み、分譲マンションにおける大規模修繕工事の実施状況は、売買価格を左右するほどの重要事項に発展していた。Aマンションでは前回から25年が経とうとしており、リスクを敬遠する市場において、売買価格はどんどん下がっていった。
    また、築40年以上ともなると、マンション内のあちこちで漏水が発生するようになり、建物はより頻繁に、より大きく悲鳴を上げるようになっていった。 「このまま何もしないわけにはいかない!」と、25年ぶりに実施された大規模修繕工事であったが、山積する問題を前にしては、それは小さな抵抗に過ぎなかった。耐震強度不足と漏水、この2つの課題は重く大きく立ちはだかり、これまで30年近くも検討してきた建替え計画ですら突破できなかった壁が揺らぐことは無かった。

  • 第2章:スーパーリフォームとの出会い

    建物全体のスケルトン再生

    そんな中、遂に解決の糸口を見つけた。それは、建物全体をスケルトン改修するという、分譲マンションでは例を見ない再生手法であった。早速取り組み可能なコンサルを探し、藁をも掴む想いで業務を依頼した。
    しかし、そのコンサルでは途中の段階までしか進捗させることができず、Aマンションの再生計画は、またも暗礁に乗り上げてしまった。そこで出会ったのが、「スーパーリフォーム」を提唱する翔設計だった。「スーパーリフォーム」は、鉄筋コンクリートの躯体を残し内外装を撤去、躯体に必要な補強や修繕を施した後、新築同様に再生させる手法であり、翔設計では、老朽化するマンションストックが激増する社会背景を睨み、必ずや「スーパーリフォーム」が必要になると提唱していた。そして、Aマンションが求めていた姿が、まさにここにあったのだ。


    未知との闘い

    それまで、公共施設や賃貸住宅等ではスーパーリフォームを手掛けてきた翔設計であったが、分譲マンションでの取り組みは初めてであった。いや、「翔設計が」ではない。これまで分譲マンションでスーパーリフォームが行われたという話は聞いたことが無く、「日本初」となるプロジェクトとして、多方面から注目されることとなった。
    難問が山積みであることは承知の上で依頼を引き受けた翔設計だが、最初の関門は、この新しい再生手法を所有者に理解してもらうための説明会だった。区分所有者向けの説明会は、一般的には1回ないし2回程度しか開催されないが、ここは丁寧な説明が求められる局面であり、参加人数を絞って回数を重ねる方法を選択した。
    5~6人までの少人数を相手に、一人一人に伝わるように何度も開催した説明会は、遂に30回を超えた。建替え計画であっても、説明会をここまで数を重ねるという話は決して多くなく、いかにハードルが高いプロジェクトであるか、これまで実現したケースが確認できないという事実の重みすら感じられた。

    様々な制約との闘い

    新耐震基準で求められているのはIs値0.6以上という基準だが、Aマンションの場合は多くの階で0.3付近という耐震強度が不足している状況であった。新耐震基準をクリアすべく他社で計画された耐震補強案を改めて検証した結果、居住者への工事負担の大きさと、プロジェクトの実現性に大きな疑問が生じた。それは、柱を太く強くする補強案であったが、太く強く補強するためには、いやおうなしに専有部の内装を大きく解体する必要がある計画であった。
    耐震補強と同時に解決しなくてはならないもう一つの課題である漏水問題についても、スラブ下配管をスラブ上配管へ変更するための全戸一斉工事が必要な計画であり、当初の他社案では、専有部も全戸スケルトン改修が必要だった。
    もちろんそれは、「建物全体をスケルトン改修する」という目的そのものが表現されている計画ではあったが、居住者への工事負担が大きすぎることと、プロジェクトに賛同しない区分所有者への配慮などを考えた時に、実現の可能性が非常に低い計画案であることが明らかになった。


    永遠の課題と思われる2つの弱点

    Aマンションは、今では採用されることの無い「スキップフロア式」を採用しているだけでなく、バルコニーが無く、代わりに「花台」と呼ばれる鉢植えなどを置けるスペースのみを有する形状だった。その窓側から避難するための設備が無いため、現在では建築基準法で定められている「二方向避難」が叶わないという大きな弱点でもあった。
    更には、バルコニーが無いため、エアコンの室外機を置く場所が無く、仕方なく花台に室外機を設置せざるを得ない状況であり、多くの住戸がそのように設置していた。耐震強度不足だけでなく、地震が起きた時に室外機が落下する危険性も有しているという、二重苦三重苦状態であった。



    追い込まれて解決方法を生み出した

    これまで長年の間、検討を重ねたきた中で賛同を得られなかった計画の一つに「外付け耐震補強」があった。理由は「外観が悪くなる」「眺望が悪くなる」「耐震基準が低くて仕方なく補強したことが一目瞭然」などであり、<耐震強度が上がる>という機能的な価値しか手に入らず、それなりに高い工事費用を投下しても、資産価値や住みやすさなどを損ねるという懸念を払拭することができなかった。


    外付け耐震補強の例


    しかし、当初の補強計画案では実現できない中で、なんとか新しい補強案を計画しなくてはならないジレンマの中、試行錯誤を繰り返した結果、遂にたどり着いた方法は、なんと「外付け耐震補強」であった。
    今回の外付け補強案は、これまでの懸念を全て逆手にとるかのような総合的解決を実現しており、このプロジェクトの実現に向けて大きな後押しとなる計画だった。 新しく獲得したファサードは、グリッド形状の補強部材が、あたかも新築マンションのような外観を演出しており、一見して「補強した」とは思えないデザインとして成立している。
    現在築50年を超えてくるようなマンションとなると、旧耐震基準時代となるため、再生における耐震補強のアプローチは、外観その他に影響する大きなポイントである。


    新しい考え方による外付けグリッド補強のイメージ(別のマンションの事例です)

    インフラ全体の更新へ

    漏水が頻発しているスラブ下配管は、Aマンションにおいては共用部扱いとなっており、区分所有者が勝手に更新できずに何十年も放置され悲鳴を上げていた。今日の一般的なマンションではスラブ上配管方式が採用され、かつ二重床方式で床転がし配管になっているのが常識的であり、そういった状態に改修することが求められていた。
    しかし、実行には、給排水管の撤去と新設のために天井と床を大幅に工事することが必要であり、水回りの住設機器(キッチン、洗面、風呂、トイレなど)を解体しなくてはならない。解体した既存の住設機器については基本的には再利用が難しく、室内の大幅リフォームに匹敵する工事内容が想定される。
    工事範囲がそこまで広いのであれば、更新範囲を給排水管に限定する必要はなく、専有部もスケルトンリフォームを実施し、電気・ガス・水道・TV・電話・通信といったインフラ全体の更新を行うことが望まれた。


    スラブ上配管方式(左)とスラブ下配管方式(下)


    共用部も専有部もスケルトンリフォームで新築同様に再生

    老朽化マンションは、現代のマンションと比べると、共用部の基本性能が圧倒的に低く、単に修繕したとしても、到底同じ市場で比較される力を持ち合わせていないことは常識と言える。Aマンションが目指す姿は、耐震補強と給排水管更新という2つの命題を解決するかではなく、新築同様に再生させることにあり、建物全体のインフラを刷新し、中古マンション市場においても新築マンションと十分に比較対象となることを目標としていた。


    在来工法による浴室(例)



    スケルトンリフォーム工事の様子(例)



    リフォーム後の様子(例)


    それは、再生により資産価値を大きく向上させることを目標としており、「経年が進む=老朽化=様々な劣化が進む=資産価値も下がる」という一辺倒な価値減衰の流れから脱却することでもあった。
    そのためには、共用部のインフラ更新だけでなく、専有部もスケルトンリフォームするのが望ましい選択肢であり、共用部も専有部も一体の建物として新築同様に再生させるという、スーパーリフォームの真髄とも言える領域に踏み込んだ。
    とはいえ、様々な事情を抱えた区分所有者の集合体であるが故、全戸スケルトンリフォームが可能というわけにはいかない。インフラ更新のため、最低限の工事は必要となるが、それ以上のリフォームについては、各区分所有者と工事範囲について打合せを行い、合意の上で工事を行う計画とした。
    こうしてスーパーリフォームの計画の全貌が見えてきた。

    合意形成の壁

    老朽化が進むAマンションではあるが、山手線内の好立地であることも大きく影響し、同年代の他のマンションと比べ、新築時から居住している高齢者の区分所有者ばかりということはなく、30代から80代といった幅広い世代が満遍なく生活しているような状況であった。長く暮らす高齢者には、環境が変わる事への不安があり、かたや、Aマンションを購入して間もない若い世代は住宅ローンの返済に追加される工事費負担への抵抗があった。


    金融機関とも本プロジェクトでの融資スキームを検討を重ね、新しい商品設計も進めているが、最終的な合意形成は、それだけでは難しい。 スーパーリフォームで資産価値の向上が見込めるのであれば、売却しよう、という所有者も存在するが、果たしていくらで売れるのか?不動産市場においても、これまで前例のないような査定が求められる。現状の査定価格+工事費用プラスアルファという想定に対して、プラスアルファの部分はどれくらいなのだろうか、新築同様に再生された中古マンションは市場の眼にどう映るのだろうか。


    税金はどうなるのか、相続する場合はどうするのか、工事費はどう工面し、どう分担するのか。それらを網羅して整理を行い、様々な事情を抱える区分所有者に対して出来る限り対応策をカバーしていく必要がある。


    Aマンションのチャレンジは続く。


    (本記事は、2022年6月時点の内容です)

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