PROJECT STORY

動物園における生息環境展示 ランドスケープデザイン

事例詳細「上野動物園パンダのもり新設プロジェクト・ランドスケープデザインへのこだわり」

  • 建物

    公共施設 公園・動物園

  • 課題

    新築・建替え 意匠・デザイン コスト削減・収益向上 企画・設計

  • 関連サービス

    設計コンサルタント ランドスケープコンサルタント

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INDEX

  • 1.生息環境展示の実現

    上野動物園「パンダのもり」は、旧施設の老朽化や動物福祉に配慮した飼育への対応などに伴い、西園不忍池近くの敷地に新たに設けられた展示施設である。これまでの展示では、直線状の動線で平坦地に展示されてきたのに対し、この展示では、ジャイアントパンダが生息する中国四川省等の山岳部のランドスケープを創出し、彼らの生息環境とそこでの行動を誘発する生息環境展示を実現している。


    観客は、生息地である四川省の植生と竹林からなる、ゆるやかに曲がる園路を進むと、「足跡」、「木に残された爪痕」や「糞」の造形サインを発見し、それらの痕跡から生息環境に入り込んだ臨場感を体験する。更に同じ生息域に暮すレッサーパンダやキジ類に出会い、園路を曲がった先でジャイアントパンダに遭遇する。

  • 2.借景の活用による深山のランドスケープの創出

    展示の場では、動物側の地盤を観客側から60cm上げることで、視線高を近づけている。更に、奥に向かってゆるやかに地盤を上げて行き、3.5mまで上げてつくりだした傾斜地に、岩場や倒木を配置して起伏に富んだ場を造り出し、山地で暮らす様子を見上げで観察することができるようにしている。奥には森が広がり、一体的に見ることができるが、これは計画地の外に広がる東園の斜面樹林であり、借景として活用することで深山のランドスケープを創出している。見上げは動物を優位の位置に配することで、観客が動物に出会う際に、生命としての価値やその尊厳が理解されるように展示されることの必要性とともに、動物にとっても観客から見下ろされることによるストレスを回避するためのものであり、動物福祉の観点からも求められる位置関係である。


    動物側に広がる傾斜地は、奥に配置されている寝室などの建造物の存在を遮蔽して景の役割を果たし、敷地周辺の構想ビルには極力視線をむけないような動線とし、遮蔽のための高木植栽も配している。園路は先の見えないゆるやかな曲線として、いくつものシーンで出会う臨場感や遭遇体験を演出しながら、観客同士の視線が合うことを避けている。動物にとってもストレスを減じる動物福祉の役割がある位置関係としている。


    写真1 岩場と草木の間で休むジャイアントパンダに遭遇する。


    写真2 東園の斜面樹林を借景として、深山の景を創出している


    写真3 起伏に富んだ場を動き回るジャイアントパンダ

  • 3.ガラスと堀を用いた3種類の展示方法

    屋外でのジャイアントパンダと観客の間は、強化ガラスで間近に観察することができる場と堀を用いて直接動物を観察できる方法を取り入れている。ガラスによる展示は、強化ガラスを縦使いとして、ガラス上部にフレームを持たない三辺固定の構造のものと、四辺固定で横長に広く展示場を観察できる構造の2種類を用いた。後者では庇を用いて、陽射しを和らげ、ガラスの映り込みを抑える工夫をしている。堀による展示は、深さ2.5mの堀を用いて、直接の観察を可能としている。特定動物であるジャイアントパンダは、施設構造基準によって、観客側には150cm以上の高さの人止め柵が必要と定められている。園路と屋外展示を同一の地盤高で構成した場合、この人止め柵は観客の視線高に設置され、観察を阻害するものとなるが、観客側に深さ60cmの堀を設けることによって境界壁の高さを地盤高から90cmに抑え、子供や車いす利用者の視線高に対応した構造としている。また、ガラスを併用した堀とすることで、園路と展示場の一体感を確保しながら、動物が堀に降りた場合における視認性を確保している。

    また、最初の屋内展示ではガラス越しに実際の生息地の森林景観の写真を背景にし、二回目の屋内展示では、遠くに広がる雄大な山岳景を背景として配した。


    図1 全体平面図


    図2 堀による展示(AA断面図)


    写真4 屋内展示(森林景の背景)


    写真5 屋内展示(山岳景の背景)


    図3 ガラスによる展示

  • 4.景観に配慮した植栽計画

    植栽は、遮蔽植栽と景観植栽に大別される。遮蔽植栽では、入口エリアに滞留する観客の姿を屋外展示1・2から遮蔽するという役割のためにモチノキ、シラカシ等の常緑広葉樹を配しており、また、南側の不忍池の園路を歩く観客の姿や北側にそびえるビルを遮蔽するという役割のためにスダジイ、クスノキ等を配している。景観植栽では、入口エリアにはモウソウチク、ホウライチク等の竹類とスダジイなどの常緑樹、カムラオザサ等を配している。竹林の奥には東園の斜面樹林である背の高い常緑樹林を借景として活用している。屋外展示2のエリアには景をつくるとともにジャイアントパンダに緑陰を提供するために、ムクノキやエノキ等の落葉樹を配している。また、スダジイやウバメガシ等の常緑樹で森林への入り込み感を演出し、常緑と落葉の混交林である四川省の森にわけ入ったようにイタヤカエデ等の落葉樹も配している。屋外展示3では、エノキ、コナラ等の落葉樹とともに、シラビソやウラジロモミ等の針葉樹を配して、四川省でも標高の高い山岳地帯に来たことを表現し、クサソテツや、オニヤブソテツ、ササ類などの地被も岩の間に配して臨場感を演出している。

  • 5.ランドスケープと一体化した建築デザイン

    建築物はランドスケープとの一体化をデザインの基本としている。屋外展示場の起伏によってジャイアントパンダの寝室等の建築物への視線を遮蔽し、視線に入る部分は擬岩や擬土の造成と植栽を併用して建築物としての存在感を無くしている。隠すことができない屋内展示棟は、上海レンガを用いた外壁と反りのある屋根や中国風の模様を施した木製の建具によってデザインしている。屋根瓦の先端は、古代中国の宮殿等の屋根に葺かれた瓦当を模している。瓦当には建物の名称や吉語が示されるが、ここでは「大熊猫舎=ジャイアントパンダ舎」と文字を入れている。観客のトイレもノシバで屋上緑化を施した曲線線形の屋根形状とし、ランドスケープとしての一体化を実現している。


    写真6 屋内展示棟 上海レンガを用いた外壁と反りのある屋根


    写真7 観客のトイレ 曲線屋根形状によりランドスケープと一体化

  • 6.管理運営への配慮

    動物舎の構造について、屋外展示、屋内展示、非公開の飼育場の3つのエリアを1ユニットに組み合わせて構成することで、多様な飼育状況への対応を可能としている。動物舎内の飼育エリアは全て管理通路に面して配置し、良好な飼育環境を確保している。飼育管理上の配慮として、防犯カメラによる管理の他に、全ての展示場の背面に屋上やキャットウォークを利用した管理通路を確保し、飼育担当者が直接目視により確認できるよう計画した。また、非公開の屋外飼育場をジャイアントパンダのペアリング(交配)スペースとして設置しており、ここでは四周からのぞき込めるよう上部に一周できるキャットウォークを取り付けている。2つの飼育場に入れたオスメスの状況を直接目視で確認しながら、飼育担当者のタイミングでペアリングに誘導することでき、繁殖に寄与する構造となっている。このような構造が功を奏してか、2021年6月に双子のシャオシャオとレイレイが誕生した。


    図4 ダイアグラム図


    写真8 パンダのもり 空からの様子

  • 7.実現のためのプロセス

    本計画の実現に際しては、欧米のジャイアントパンダの最新の展示事例4園の事例調査を行い、その調査結果を踏まえて計画を行った。また、四川省の保護区への調査を実施し、環境、景観、街並み等の情報を収集し、ランドスケープの精度を上げることに務めた。現地では中国の野生動物保護協会と協議し、ジャイアントパンダの飼育環境等について助言を受け、計画に反映させている。施設の充実のため、飼育展示係、管理係、案内係、教育普及係等担当係との打合せを複数回に渡り実施した。飼育展示係とは、粘土模型によって展示場の起伏や擬木の形状等を検討し、形状や素材感は1/1(実物サイズ)のモックアップによる現地確認を行い進めた。管理係、案内係とは、観客の誘導方法についての協議を行った。観覧通路は年間に約350万人が来園するという上野動物園特有の課題を解決するため、導入部の園路は幅広に計画し、人溜まりのスペースとして活用できるよう計画した。園路幅は3m~7mの幅を確保し、前面は車いす利用者等の利用ができるようフラットに計画している。園路背面に向けて勾配をとることで多くの観客が訪れた場合においても後部からも動物を望めるよう計画している。また、湾曲した園路はランドスケープの演出と同時に、観覧ルートを延長することで人捌きの対応策として活用できるよう計画している。観客の誘導方法について協議を行い、外構の一部の線形について変更をかける等の対応を行った。教育普及係とは、造形サインの打合せを行った。上野動物園の既存施設にて「爪痕」や「糞」を確認し、モックアップを作成し実物と比較しながら打合せを繰り返し重ねることで、限りなく忠実に再現した。


    写真9 粘土模型による検討


    写真10 1/1(実物サイズ)のモックアップを用いた現地確認

  • 8.おわりに

    「パンダのもり」は東京の上野動物園に山岳地と森林の環境をつくりだし、ジャイアントパンダが自然な環境で暮らし、観客がそのランドスケープの中でパンダを眺めることを可能にした。それは起伏を用いて、樹上や岩場で行動する動物に見上げで出会い、建築物を遮蔽して奥の樹林を活用するという生息環境展示の基本を応用して構成されている。

    具体的な生息環境として、登攀用の樹木、擬木、岩場、水辺、緑陰、お互いの視線から逃れるための起伏等、動物福祉にも配慮した環境を配したが、完成後に誕生したシャオシャオらは、頻繁に樹木に登ってこれらを活用している。また、2月の降雪の際には、積雪の岩場を活発に歩く姿がメディアでも放映された。これらはまさに生息環境としての展示の価値を確認させるものであった。

    この展示を造るために、欧米の精神事例を調査してきたが、完成して改めてそれらの事例と比較してみても、それらとは異なる独自性のある展示として位置づけることが可能である。「パンダのもり」を完成させたことと、この計画の考え方は、「野生動物の行動や生態、生息環境を再現し、様々な魅力を引き出してゆくための」今後の上野動物園の計画、そして広くわが国の動物園の再整備計画に大きな力となることであろう。


    写真11 樹木に登るシャオシャオ


    出典:2021年度日本造園学会賞受賞者業績要旨から

    (原稿和文タイトル)上野動物園パンダのもり

    (原稿英文タイトル)Ueno Zoo Panda Forest

    (執筆者名)山木慎介、若生謙二

    (執筆者英語表記名)Shinsuke Yamaki Kenji Wako

    (略歴、所属・役職)株式会社翔設計 大阪芸術大学

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